平成17年11月15日午前10:00〜午前11:30
仙台地方裁判所第102法廷
裁判長1名 裁判官2名
 

裁判長:これより開廷します。
    前回に引き続き証拠調べを行います。
    弁護人から証拠説明をしてください。

弁護人:遺族や被害者に宛てた手紙と被告人が書いたノート、この中は本人が書いた
    文章で、いずれも被害者に対しての 謝罪と反省の気持ちを表したものです。

裁判長:手紙7通にノート1冊。検察官は確認してください。

弁護人:謝罪の気持ちを述べたものばかりです。

裁判長:採用します。

弁護人:中身は言葉としてはすべて謝罪のものです。

裁判長:はい、それについては読んでくれという事ですか。ここでは読み上げずに。

弁護人:あの、今のような中身の内容ということで・・・・・。

裁判長:そういうことでよろしいですかね。検察官のほうではいかがですか。

検察官:はい。

裁判長:細井恵さん、三澤明音さん、齋藤大君への3名分、さらに3名8月22日や
    10月と日付けのないものですね。ノートは8月23、24、25日、
    齋藤さん宛てなど遺族に対する気持ちなど、26,27,28,29,30、9月1日と
    連日書かれています。内容はほとんど同じで、遺族や被害者に申し訳ないと
    言う内容で11月12日まで書かれているということですね。
    こんなことなのですが、検察官の方から何かありませんか。

検察官:(特に無し)

裁判長:検察官の方でも甲証82〜90号の証拠を提示していますが、弁護人いかがですか。

弁護人:よいでしょう。

検察官:甲82号証、齋藤大君のお母さんの検察官調書を一部朗読します。

   ○お父さんとよく釣りに行ったこと、釣りに行っても本人はいつも本ばかり
    読んでいたこと、将来の夢について中学校のあたりから、天文学者や地質学者に
    なりたいなどと語っていたことなど。

   ○事故当日の様子について、午前10時ごろ警察の霊安室に案内され対面したとき、
    まるで生きていた時のようにきれいな顔をしていたこと、私たちが来るのを
    待っていたかのようだったこと、そして頭に包帯をしているのを見て、
    頭を強く打って亡くなったことを知ったこと、
    かわいそうで早く家につれて帰りたいと思ったこと。

   ○毎日ねる前、窓を開け墓に向かって手を合わせていること、
    大がダウンロードしてくれた着信メロディーを目覚ましに使っている。それを
    聞くと「ああやっぱり大はいないのだ」という脱力感が沸き、悲しくなる現実

   ○被告人に対する気持ちとして、一生外に出てほしくない、サファリは任意保険も
    かけていない、電話1本で入れる時代にこんな無責任なことはない。
    刑事事件では最も重くとも20年の刑。20年経ったその後も一生贖罪してほしい。
    民事裁判を起こしたいと思っている。

   ○被告人はいずれ社会に復帰します。しかし大はもどらないという、
    家族には希望のない暮らしを強いられている現実

   ○被告にも大の遺体を見せたかった。見た目にはなんともないが、
    火葬場でお骨になったとき、骨盤や大腿骨が複雑骨折し、
    ばらばらにした残酷さを十分考え罪を償ってほしい。

検察官:次に甲83号証、細井恵さんのお母さんの検察官調書について朗読します。

   ○恵さんは人の命を大切にする子であったこと、運転にも慎重で、
    父が少しでも運転でスピードを出すと後部席から注意するほどであったこと。
    そんな恵が命を落とすなど信じられなかった。

   ○事故当日、事故の知らせを受けて夫婦で塩竃署に出向いた。
    どういう怪我であるか教えてもらえず不安な気持ちで病院に向かった。
    途中事故現場を見てとても大きな事故で、わきに変なRV車があり、
    こんな大きな車が事故を起こしたのだと分かった。
    車の前に乗っていた先生に恵はどういう怪我なのか聞いたが無言でした。
    刑事さんに恵が亡くなったことを告げられたとき、ショックで気を
    失いそうであった。恵に早く会って一緒に帰りたいと思ったが、
    2時間経ってやっと会えました。 霊安室という汚いところで恵は横たわって
    いましたが、まるで眠っているようで微笑んでいるようでもあった。
    ただ、冷たく硬く、首のところに血がついていてこれが現実とは思えず、
    今にも目を覚ましそうでした。

   ○告別式で 友達の一人が20分位挨拶してくれた。
    恵がとても優しく弱い立場の子に特に優しかったといってくれ、
    恵さんはまるで眠っているようです、笑顔が本当にすばらしかった、
    15年間の人生だったが、恵さんが大人になるのが見たかったと
    いってくれたのを聞いて、みんな泣き出してしまった。

   ○夫婦にはもう希望がない。早く恵のところに行きたい。今の私たちに
    出来るのはこの刑事裁判をしっかり見届けて、恵に報告することだけです。

   ○被告人に対して
    この裁判を通じ、自分の行為がいかに他人の命を奪い、
    危険極まりないものであったか、自覚させたいと思う。
    危険運転致死傷罪を受けても20年の刑。刑事さんに、明音さん、大君の3人分で
    60年の刑にはならないのかと聞いたがそれはならないという。
    恵は60年は生きただろう。3人で180年分の命を奪ったことをどう思うのか。
    私たち夫婦は心の支えを失い、生きる糧を失い、兄や友人親族皆が苦しんでいる。

検察官:次甲84号証、三澤さんのお母さんの検察官調書の一部を朗読します。

   ○今の気持ち
     被告には本当は死刑になってほしい。生きているのが許せない。
    公判を傍聴し、しどろもどろする被告を見、無責任で汚いと強く感じます。
    私は自分の人生でこんなに人を憎んだことはない。今までは3人の子供の成長を見、
    受験で一喜一憂する、どこにでもいる普通の母として平凡な生活をしてきた。
    しかし今、心の中は悲しみと憎しみでいっぱいです。

   ○被告人に対して
    酒を飲めば注意力が低下し、安全な運転が出来なくなることはわかっていること。
    それでも運転したのは、他人の命や迷惑をまったく考えない被告人自身の
    自己中心的な性格がはっきり現れたもの。 裁判所は1年でも長く刑務所に入れて
    もらいたいし、終身刑にして社会に出られないようにもしてもらいたい。
    危険運転致死傷罪では20年の刑だが、3人分の60年にしてもらいたい。
    それでも明音は帰って来ない。一生贖罪の人生を送って欲しい。

検察官:甲85号証 Tさん本人の警察官調書の一部を朗読します。

    ○今の気持ちについて 足の火傷が治るには時間がかかりそう、
    きれいに治るか心配です。 お父さんお母さんに心配かけているのもつらいです。
    一年も半分が終わり、進路を考える時期となっている今の気持ちを一言で言うのは
    難しいが、被告人に対しては憎たらしい。頭にきている。
    友だちがなくなったのも悔しい。

検察官:甲86号証 K君のお父さんの警察官調書の一部を朗読します。

   ○今の本人の状況について
    事故から4ヶ月経ち、この9月には授業に戻り、いったんは以前の息子に
    戻りつつあると思っていた。しかし、その矢先、先月17日横浜の高校生の
    下校中の列に車が突っ込むという事故があった。この事故のあとに
    まさかあのような事故が起こるとは信じがたかった。家族皆が忘れようと
    していたとき、横浜の事故再発で息子には悪い影響があったようだ。
    翌日学校に行く時になって具合が悪いと言い出し、学校に行けなくなった。

   ○被告人への気持ちについて
    この男を憎んでも憎みきれない気持ちでいっぱいだ。
    5ヶ月経てば癒されるかと思っていたがますます怒りが増してくる状況。
    無理は承知、もとの息子を返して、もとの生活を返して、そうすれば何も
    言うことはない。 被告人には最高重い罰を与えてもらいたい。

検察官:甲87号証 Aさん本人の警察官調書の一部を朗読します。

   ○今の気持ちについて
    3名の同級生の尊い命を奪った事故。 多数の友だちを怪我させた事故。
    そのショックで夜も眠れず、意味もなく涙が出てくる。
    骨折した足は手術するまで動かせなかった。
    少しでも動かせば激痛が走り、消毒の時が一番痛くてつらい時間。
    こんな思いをするなら死んでしまいたいと思うことも。

   ○被告人に対して
    母は毎回裁判の傍聴に行き、被告人は反省しているといいますが、
    私は決して許せません。3人の同級生を返して、幸せだった家庭を返して。
    一生刑務所に入っていて欲しい。

検察官:次は甲88号証 Yさん本人の警察官調書の一部を朗読します。

   ○今の気持ちについて 退院後9月から登校するようになったがまだ長い時間
    座ってはおれない。登下校は母に付き添ってもらい、タクシーで通っている。
    怪我がまだ治っておらず、通院しなければならないので、授業は時間割どおり
    受けられない、1時ごろ帰る日が多い。将来への不安もたくさんあり、
    特に体が元通りになるかとても不安です。

   ○被告人に対して とても憎くて悔しい。家庭をめちゃめちゃにしてしまった。
    姉が毎回傍聴しているがとても反省しているとは思えないといっている。
    刑務所に入って一生を償って欲しい。

検察官:次は学校職員の検察官調書の一部を朗読します。

   ○ウォークラリーについて
    この行事は、卒業生の間で、高校3年間で最も思い出深い行事となっている。
    ウォークラリーを踏破した達成感や成就感、クラスメートとの一体感、
    
仙台育英学園高校生として3年間をがんばろうとする自信と誇りを持たせる、
    精神的基盤を作る重要な行事であること。2・3年生もボランティアで安全・
    誘導係を買って出てバックアップし盛り上げ、安全には万全を期していた。

   ○事故発生時の状況
    5月22日 第1グループが午前4:00に出発し、第2グループが4:15に出発
    しました。間もなく多賀城校舎の本部に生徒が事故にあったとの電話が入り、
    職員が現場に急行して見ると、まさに大惨事の状況があった。細井恵さんと
    齋藤大君が倒れていて即死の状態で、救急車ではなく警察の車で搬送された。

   ○裁判傍聴について
    8月9日以降の被告人裁判の傍聴に関し、遺族や被害者の親族が
    傍聴しやすいように万全の配慮をしている。

   ○生徒会主催のお別れ会について
    生徒やご遺族の気持ちを考慮し、5月31日グローリーホールにおいて
    生徒会主催で「お別れの会」を開催した。その会には多数の生徒が参加、
    全校の1/3に当たる1200人の生徒が参列し、献花してお別れをした。

   ○事故後のケア
    今回の事故で精神的ダメージを受けた生徒に対し、
    カウンセリング活動で対応していること、また、退院した生徒には
    個別の学習指導等をするなどし対応していることが述べられている。

   ○飲酒運転撲滅署名運動
    生徒会中心に署名活動をした。
    その結果、166,985人の署名が集まった。

   ○現在の教職員の心境
    最も多感なこの青春期に、学習はもとより、各行事やスポーツを通し
    人格形成に尽力してきた。しかし、この事故により、生徒は深い心の傷を
    負い、あるいは喪失感、挫折感、亡くなった友への悲しい思いを抱くなど
    最悪の状況に我々は直面している。どうやって生徒に明るい生活を
    取り戻させるか、毎日、毎日悩んでいる旨教職員の心境が述べられている。

検察官:甲90号証は89号証の添付資料です。

 
 
<証拠調べに関する被告人質問>
 

裁判長:弁護人は何かありませんか。

弁護人:今の証拠調べのことについて被告人に質問したいと思います。

裁判長:被告人は前に出てください。

弁護人:今検察官が述べた証拠書類は全部は届いていないので、弁護人も全部は
    読んではいないのですが、あなたは一部届けられ読んでいますね。

被告人:はい。

弁護人:どのように感じましたか。理路整然と行かないまでも、
    概括的にどう思っているか聞かせてください。

被告人:言葉にうまく言えませんが、お詫びのしようがなく、
    本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。本当に済みませんでした。

弁護人:事故から半年間留置所にいて、その間いろいろ考えましたね。
    いかに被害者に対して重くつらい思いをさせたことを考えましたか。

被告人:はい。

弁護人:被害者のことは半年間ずっと考えていましたか。

被告人:はい。本当に申し訳ございませんでした。

弁護人:その気持ちをうまく表現できず、文章にしてみなさいと
    私からも言われ実際に書きましたね。

被告人:はい。

弁護人:今聞いたのは被害者や亡くなった方への手紙ですが、それ以外に留置場で
    ノートに被害者に対してあなたの気持ちを書きましたね。

被告人:はい。

弁護人:先ほどの証拠調べでは8月23日から記載がはじまっているとありましたが、
    この日から書き始めたのですか?

被告人:その前からです。

弁護人:自分で書いたものを読み返したりしましたか。

被告人:はい。

弁護人:言葉として同じものが並んでいますが、同じようなことを書いても、
    考えることは日々違っていきましたか。

被告人:はい。

弁護人:どんなふうに変わっていきましたか。

被告人:どのようにして皆さんに償っていったらいいのか・・・・。

弁護人:そのような気持ちが日々強くなっていったということですか。

被告人:はい。

弁護人:どうやって償っていったらよいか、
    具体的な道を見つけるのはなかなか困難ですよね。

被告人:・・・・・・・

弁護人:具体的にこうだといういうことで、思っていることを少し聞かせてください。

被告人:被害者の皆さんには本当に申し訳なく思い、
    私の全てを賭けて一生かけて償いたい、本当にそう思っています。

弁護人:自分を被害者の立場と置き換えて考えたことはありますか。

被告人:はい。

弁護人:被害に遭われ、特に亡くなった方々、愛する家族を失った思い、
    あなたにも愛する家族がいますよね。

被告人:はい。

弁護人:被害者、ご遺族がどんな気持ちでいるのか、
    自分とその立場に置き換えて考えることはしましたか。

被告人:・・・・・・・(泣く)

弁護人:これからもどうやって償っていくのか、
    考えていかなければならないことはわかりますね。

被告人:はい。

弁護人:先ほどの証拠調べの中にもありましたが、被害者の方々は民事訴訟を
    起こすと述べていますが、甘んじて受けなくてはならないですね。

被告人:はい。

弁護人:以上で終わります。

裁判長:それでは検察官から質問してください。

検察官:弁護人から提出された手紙は、齋藤さん、細井さん、三澤さん宛てに
    書かれていますが、実際にはご遺族には渡っていますか。

被告人:渡っていません。

検察官:どういういきさつで渡っていないのか分かりますか。

被告人:先生とお話をして、ご遺族が受け取れないと言っていたと聞いています。

検察官:それを聞いてどう思いましたか。

被告人:当然のことだと思いました。

検察官:反省しているのなら、渡してもらうために、何か努力をしましたか。
    誠意を示して一度断られてもまた書くとか。

被告人:先生の返事では受け取れないと言っていたので・・・・。

検察官:齋藤さん宛には何通書いたのですか。

被告人:3通か4通だったと思います。

検察官:三澤さん、細井さんについてはどうですか。

被告人:同じくらいです。

検察官:弁護士の先生にお願いして、受け取ってもらえるよう話したのですか。

被告人:まだ受け取れないという話を聞いていたので、先生にお願いしていました。

検察官:ところで、先ほどの手紙ですが、何かを写したように
    一字一句同じような内容ですが、どういう思いで書いたのですか。

被告人:自分の思いを書きました。
    事故を起こしてしまったことで、留置所の中で・・・。

検察官:それで同じような内容になってしまったということですか。
    ご遺族が一番知りたがっている事故の様子など書いてみるとか
    思わなかったのですか。何か工夫して読んでもらえるように
    努力をしたことはなかったのですか。

被告人:お詫びしたいです。

検察官:文面を変えてやるとか何かなかったのですか。

被告人:・・・・・・

検察官:「すみません。一生背負って償います」とかの気持ちを書く努力をしましたか。

被告人:思っている気持ちの全てを書かせていただきました。

検察官:ノートをつけるきっかけは何だったのですか。

被告人:毎日の留置所の中での、自分の皆様に対しての謝罪の思いというのか・・・・。

検察官:このころから書いたのには、何かきっかけがあったのではないですか。

被告人:私のただ自分の思いからです。

検察官:誰かに見てもらおうと思って書いたのですか。

被告人:そういうわけではありません。

検察官:証拠として提出するに当たって、自分の反省を人に見てもらうという前提で
    提出することについて弁護人と話し合ったのですか。

被告人:「書いていますか」と聞かれて提出しました。

検察官:証拠として出そうと弁護人は話しましたか。

被告人:先生の方から出しますと言われて提出しました。

検察官:被告人の反省の気持ちを書いたものであって、
    自分からは出せないとは言わなかったのですか。

被告人:・・・・・。

検察官:あなたのノートには、晴れの日は太陽のマーク、曇りの日には雲のマーク、
    雨の日には傘マークが書かれているが、こういうのを見ると、
    本当に反省の気持ちがあるのか疑問に思うのですがどうですか。

被告人:それは間違いありません。

弁護人:絵が書いてあるからと言って、反省の気持ちがないというのは、理解できません。
    当初から提出しようと思って書いたのではないですよね。
    自分を見つめるために書いたのですよね。

被告人:はい、そうです。

弁護人:あなたに提出しようと話したのは先週のことですよね。

被告人:はい、そうです。

弁護人:終わります。

裁判官:証拠調べはこれでいいですか。

弁護人:ただ保険については現実にまだ結論が出ていないので、
    次回まで何かあれば証拠として提出します。

 
 
<意見陳述>
 
裁判長:意見陳述の申し出がありましたので申し述べていただきます。
    Zさんからお願いします。
    生年月日や名前は調書にあるとおりですね。それでは始めてください。

    《以下、意見陳述》
 
 
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