日時: 平成18年1月23日午後1時半から2時
場所: 仙台地方裁判所第102法廷
裁判官:裁判長1名 裁判官2名
 
裁判長: 被告人は証言台の前に立ちなさい。
   
裁判長: 主文。被告人を懲役20年に処する。未決勾留日数中150日を刑に算入する。
では、被告人は席に戻りなさい。
   
裁判長: 今から理由を述べる。本件は平成17年5月22日、被告が国道45号線小田原2丁目の安田病院前から、運転前に飲酒したアルコールの影響により運転が困難な状態にありながらRV車を走行させ、午前4時15分頃に仮睡状態に陥り、多賀城市八幡1丁目交差点の赤信号を看過し時速60キロで進入。横断歩道が青で歩行者の横断待ちをしていたTの乗用車の右前部に被告の自車の左前部を衝突させ、自車を停止車もろとも青信号で横断歩道を歩行中の高校生の列に突込み、斉藤大、細井恵を外傷性脳損傷と頚椎骨折で即死させ、午前5時33分頃、搬送先の病院で頭蓋底骨折のため、三澤明音を死亡させ、他に15名に対して骨盤骨折等の加療3ヵ月から1週間の重軽傷を負わせた危険運転致死傷罪に関する事案である。

弁護人は、被告が事故当時、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態にはなく、その認識もなかったと主張し、危険運転致死傷罪の成立を争い、被告もそのように供述してきた。弁護人によれば、被告は解体工であり、前日午前6時前から丸1日寝ていなかったのが事故の原因であり、飲酒が主因ではないと主張してきた。

しかしながら証拠によれば、被告は国道45号線を宮城野区小田原2丁目の安田病院前までの走行中に3回にわたり加速、減速を繰り返し、安田病院前の交差点において赤信号で停車後に居眠りし、信号が青に替わっても直ぐに発進しなかった。その後、原ノ町1丁目では2〜3回、第2車線から第1車線に合図なく割り込んでは戻ることを繰り返した。原ノ町3丁目では、赤信号が灯火している交差点に進入し、さらに100メートル先の信号では赤信号で停車し、信号が青に替わっても直ぐには発進しなかった。坂下交差点でも、信号が青に替わっても直ぐには発進しなかった。日の出町から1キロ先の交差点までは蛇行運転を続け、45号線ユノメ家具店前の福田町1丁目交差点では、信号が青に替わっても直ちに発進しなかった。事故直前にも三陸自動車道高架下のT字路交差点で、ブレーキをかけずに赤信号で進入し、右折車線に割り込んだ。その後、事故現場の交差点においてもブレーキをかけることなく、停車中のTの車に追突し、さらに被害者に衝突した。衝突後の事情聴取においては、強い酒臭があり、話し方も正常でなく、アルコール濃度も呼気1リットル中0.3ミリグラム検出された。

事実関係として、安田病院前に至るまで3回にわたり速度の加減を繰り返し、安田病院前交差点では赤信号で停車中に居眠りし、青信号に替わっても直ぐには発進しなかった。以上によれば、被告は安田病院前交差点で既に正常な運転、すなわち前方注意と運転操作が困難な状態である事を認識しながら運転を続けたのであるから、被告に危険運転の認識があったことは明らかである。

被告は事故前日の午後9時から当日の午前3時半まで、飲食店で眠ることなく、約255ミリリットルの生ビール1杯と焼酎の水割り約10杯という相当量を摂取し、代行を頼もうと思ったが所持金が不足していたために、自ら車の走行を開始した。事故直後の事情聴取において、危険運転と認識しながらも行ける所まで運転を続けようと思ったと供述している。被告の体調には問題がなく、アルコールの摂取により正常な運転が困難になったことは明らかに認められる。

弁護側は、(1)走行開始から事故現場までの12.7キロは問題なく走行した、(2)危険運転に関する目撃者の証言は信用できない、(3)運転行為に重大な危険はない、と主張して争った。(1)については、たまたま衝突しなかっただけであり、走行に問題が無かった訳ではない。(2)については、4名の証人の目撃証言は具体的かつ明確で信用性が高く、Aさんが安田病院前交差点の位置に関してあいまいな証言をしたからといって証言の信憑性が疑われるものではない。(3)に関しては、弁護側は安田病院前で居眠りしたことについてはただ単に“ボーッ”としていたのであり、原ノ町付近での車線変更も僅かなブレであると主張しているが、証人の目撃証言や公判供述は信用性が高く、安田病院前でアルコールの影響により居眠りしたという事実は信憑性が高い。

弁護側は、被告は泥酔しておらず、アルコール検知度も0.3ミリグラムと決して高い数値ではないと主張するが、捜査段階において、被告が8年前に飲酒運転で仮眠状態に陥り、対向車線にはみ出し正面衝突した事故の後のアルコール検知度は0.25ミリグラムであった。以上のことから、本件における0.3ミリグラムというアルコール検知度が運転にもたらす重大な影響を否定することはできない。
   
裁判長: では量刑について。被告は運転前に摂取したアルコールによる影響を認識しながら車を走行させ、仮眠状態に陥り、交差点に停止していた車に衝突し、横断していた生徒の列に突っ込み3名を死亡させ、15名に負傷を負わせた。被告は酔いが回っていると認識したにも関わらず、運転代行費用を惜しんで帰宅するために自ら運転をはじめた。居眠りし、意識がもうろうとして危ない運転と自覚したにも関わらず、行ける所まで行こうと考え、危険運転に及んだものであり、極めて身勝手で安易な考えに基づいており、動機に酌量の余地はない。走行道路は幹線道であり、早朝だったが通行車も多く、交差点や信号も多数あった。その間、約15分、意識もうろうのまま時速約60キロで重量2トンの車を走行させ、急な車線変更、赤信号無視、青信号で発進が遅れる等の運転を繰り返すなど、重大で取り返しのつかない危険な運転を行った。

事故現場直前には、被告は仮眠状態に陥り、そのまま時速60キロで赤信号の交差点に進入し、停車中の車に衝突させ、さらに横断歩道を歩行していた高校生の列をはね飛ばし、死者3名、学校関係者を含め15名に負傷を負わせるという、他に類をみない大惨事を引き起こした結果は重大で、何をもってしても取り返しがつかないものである。

生徒たちは、学校教職員の指導に従い、青信号で横断歩道を歩行するなどしていたところ、突如、被告の車に衝突されたものであり、被害者には何の落ち度もない。死亡した3人は被告の車に順次衝突され、横断歩道から相当の距離をはね飛ばされ、うち2人、斉藤さん、細井さんは外傷性脳損傷と頚椎骨折で即死し、三澤さんは頭蓋底骨折で1時間後に死亡した。路上で瞬時に絶命した衝撃や無念は計り知れず、衝突から死亡するまでに味わったであろう精神的、肉体的苦痛は想像を絶する。3人は両親ら家族の愛情を受けてすくすく育ち、希望を胸に高校へ入学し、まさにこれからという時に15歳の若さで、将来を一方的に永遠に奪われた。失われた未来を思うと、あまりにもむごい。

両親はわが子を学校行事に送り出し、まさかの訃報に接して最後をみとることも叶わなかった。両親が手塩にかけて育てた子に先立たれた衝撃は計り知れない。遺族が公判で述べた深い悲嘆と苦悩、被告への激しい怒りはもっともであり厳罰を望んでいる。被告に対して民事訴訟を提起し、終生、しょく罪と償いをさせようとしているのも理解できる。

Tさんをはじめとした長期入院を余儀なくされた重傷者は、肉体的、精神的な苦痛が大きく、迫り来る車に衝突される強い衝撃と恐怖を味わった。陰惨な事故現場に居合わせ、かけがえのない友人を失った悲嘆、無力感にさいなまれ、精神的な衝撃も大きく心身両面で苦しみ、日常生活に支障を来たす者もいる。

将来的には精神面だけではなく、長期の入院や退院による経済的負担や学業の遅れも懸念される。他の被害者も傷害は軽くなく、事故の恐怖や友人を失った喪失感や精神的苦痛など有形無形の影響を受けた。

被告は任意保険に加入しておらず、被害者、遺族に十分な賠償が行われる望みもない。また、本件は全国的に報道され、飲酒運転に対する社会的批判が高まるなど、社会に与えた影響は多大であり、以上の量刑事情からすれば、被告の重大な刑事責任を見過ごすわけにはいかない。

被告は反省し、公判でも涙を流し遺族や被害者に謝罪の意を表し、しょく罪を誓っていること、父親は被告の更生を援助する意向を示していること、被告には離婚したものの養育すべき家族がいる等、被告に有利な事情もあるが、本件の危険性、悪質性、結果の重大性からすれば、法が予定する最長期間の懲役刑を科すのが相当である。
   
裁判長: 被告人は証言台へ。以上のとおりだが、刑事責任はもちろんのこと、その他の民事責任についても負わねばならない。亡くなった命は帰ってこない、今後もしょく罪を続けなさい。有罪なので14日間以内に控訴できる。以上。
   
   
BACK