第8号
 

 
アイ・チャレンジ125
  - 感染症バージョン -


学校法人 仙台育英学園 理事長
加藤 雄彦
 

 盛夏の季節を迎え、ますます緑濃く、繁茂しているけやきの木陰で生徒たちが昼食のお弁当を楽しそうに食べている様子を眺めているときに一番心が和みます。それは安心で安全な教育環境のなか、友と過ごし、夢を語り、自分を社会の一員として成長させていく人生でもっとも多感な時期を同じ場で教員として共有できるからではないでしょうか。

 平成21年度を迎え、それまでにあった学園運営上の課題の幾つかを解決できた安堵の気持ちでいた4月下旬、突如メキシコで豚インフルエンザウイルスが変異した新型インフルエンザの話題が世界中に伝えられました。さらに、ゴールデンウイークを挟んで日本国内でも流行し始め、市民社会を混乱させたことは記憶に新しいことと思います。

 5月上旬に日本経済新聞社が全国の20歳以上の男女1030人から回答を得た「新型インフルエンザの医療体制への疑問、不満」に関するアンケートでは、「ワクチンや治療薬の供給が十分か不安」、「医療機関の受け入れ態勢が万全か不安」、「どの程度の症状が出たら受診すべきか分からない」、「医療機関が院内感染の防止を徹底しているか不安」が上位を占めていました。政府が求めている受診手順や場所が十分に周知されていないことと、医療体制への疑問・不安が一般的であること、そして医療関係者側も対応に苦慮していることが明らかになりました。今月に入り、国の新型インフルエンザ感染に関するサーベランス(監視)の方法が今回流行しているH1N1型に沿った基準に変更されましたが、教育現場の対応がむしろ明確になったという印象を持っています。

 要約すると、1学級あたり2人以上(部活動の場合は各部を1学級と同じ扱い)に38度以上の発熱があり、加えて喉の痛み、くしゃみ、鼻水などの症状がでた場合、学校設置者もしくは校長が地域の保健所に通知し、新型インフルエンザ感染の有無の検査を実施した上で、感染の事実が判明すれば保健所と相談して、学級閉鎖などの出校停止措置をとる内容になっています。国が学校を集団感染が容易な場所として考えているからです。全国各地で散発的ですが、実際には新型インフルエンザを原因とする休校などの措置が小学校から大学まで行われています。

 昨年秋、秀光中等教育学校第3学年の生徒たちがユーロスクールで訪れたスイスのジュネーブでの研修の際、世界保健機関(WHO)で新型インフルエンザ対策の現場部門を統括する日本人医師進藤奈邦子メディカル・オフィサーの講義がとても印象的だったので紹介させていただきます。

 「高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)の遺伝子が変異してヒトに感染して、さらに別のヒトに感染するようになった(ヒトーヒト感染と呼ぶ)ウイルスの感染予防対策を担当しています。実際、エジプトやインドネシアのように家禽類とりわけニワトリが日常生活のなかで身近にいる社会において、このウイルスに感染して死亡したニワトリに触れたヒトが感染したことが報告されています。しかし、その感染者から他のヒトに感染した例は限定的です。それならば、高病原性鳥インフルエンザウイルスはいつまでもこのような限定的状態にとどまるのでしょうか。近い将来、病原体の強いウイルスとしてヒトーヒト感染をおこす可能性が高いと想定しています。日本では新型インフルエンザという用語が使われていますが、通常はパンデミックフルーと呼ばれています。
 世界はかつてないほど、グローバル化し、地域間移動の方法は便利で高速化されました。ドイツ人の専門家が世界的でどのくらいの期間に新型インフルエンザが流行(パンデミック)するのか、シミュレーションしました。たった3日間で地球上のほとんどの地域が感染地帯となる結果を報告しています。」

 5月13日付け日本経済新聞紙上に進藤医師が述べている言葉をさらに紹介しましょう。
 「今回発生した新型インフルエンザは伝播する力が強く、世界的な流行が数年続く可能性があり、大半の感染者が軽症だが、健康な若年層が突然重症化して死亡するケースが増えれば、社会に大きな衝撃を与えるため憂慮しています。流行しやすい冬を迎える南半球で感染することが懸念されるうえ、続いて第二波、第三波が来る可能性もあります。人類は新型インフルエンザへの免疫を持たないため、当面警戒を緩めることはできません。」

 これまで本学園のすべての職員の協力をいただいて、新たな感染症である新型インフルエンザに係わるさまざまな対策を講じてきました。昨年流行した麻疹、一昨年流行したノロウイルスと同様に教育現場としてできる範囲のことを実施します。しかし、生徒の保護者のみなさまのご理解とご支援がなければ、かけがえのない子供の健康は守れないと思います。学級担任の先生方には学園と家庭の大切なパイプ役として、進藤医師の言葉を大切にしていただきながら職務遂行に尽力されますようにお願いいたします。

 われわれは先生方からいただいた感染症に関する報告・連絡・相談に迅速にお応えしてまいります。とくに、感染症対策には学校医をはじめ専門家のアドバイスを大切に受け止めてフィードバックします。事態が沈静化するまで仙台育英学園は総力でこの問題に取り組んでいきます。

 
 
 
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