第11号
 

 
アイ・チャレンジ125
  - 東日本大震災復興バージョン2 -


学校法人 仙台育英学園 理事長
加藤 雄彦
 
 今秋、中国北京市にある北京航空航天大学付属高校を訪問する予定があります。この学校への訪問目的は儒教の祖、孔子を学ぶ「孔子学院」が校内に設置され、本学園との協力協定が締結される見通しとなったからです。孔子学院は世界各国に中国古来の思想を広め、経済力や軍事力ばかりが突出しているように見える近代中国にあって、教育文化面での優位性が保たれてきたかを証明する教育機関として活動しています。

 ご存知の方も多いとは思いますが、都市化が急速に発展し、郊外にも市街化が拡大している北京の名物は秋から冬にかけての強烈なスモッグです。大気汚染の主な原因は火力発電所や鉄鋼・コンクリート工場で燃やされる石炭、そして1ヵ月に万単位で増加している自動車の排気ガスです。

 東京大学坂村 健教授によるとその中国では大気汚染の原因の一つとして、直径2・5マイクロメートル以下の微小粒子「PM2・5」が近年大きな話題になっています。PM2・5は窒素酸化物や揮発性有機化合物が光化学反応して生成されるため、人体の肺深部まで達し、呼吸器だけではなく循環器にも悪影響を及ぼします。

 中国政府の発表によると大都市では大気汚染が原因の呼吸器、循環器の疾患のために2004年の時点ですでに36万人が犠牲になっているといいます。最近のデータである世界保健機関(WHO)の2011年レポートでは毎年約200万人が大気汚染による疾患で死亡したと推定され、このなかには日本人も1万人単位で含まれています。

 大震災から7月11日で1年4ヵ月が経過しましたが、原発問題に日本人の心が釘付けになり、再稼動の適否が論じられるなかで火力発電頼みの状況が続いています。しかしながら、電力需要を賄うために国民が認めている火力発電(旧式も含む。)がもたらす大気汚染問題が高齢者や幼児・妊婦の体内にどのような影響を与えているのかという議論はお座なりになっています。

 どのような技術にも損得勘定が働き、功罪が存在します。例えば、アメリカでの調査では化石燃料の発電所から排出される微小粒子による健康被害が大気汚染のなかでも深刻であり、毎年1万人以上の死者を増やし、呼吸器系疾患者は10万人ほど増加しているといいます。

 もちろん、呼吸器系疾患者のなかには重度な喫煙習慣が主因で、大気汚染だけでは特定できないケースも含まれている確率はあります。しかし、アメリカでの計算から推測できることとして、日本国内でも依存度が高まった火力発電所で化石燃料が燃やされ、中国で深刻化しているPM2・5と類似した微小粒子が住民に悪影響を与え、確率論として1万人単位で被害が深刻化することは否定できないと思います。

 さて、本学園の宮城野・多賀城校舎に関わる震災からの復興事業は国、宮城県、日本私学振興・共済事業団、七十七銀行、そして国内外の善意によって集まった寄付金が原資となり、おかげさまで順調に進んでいます。

 しかしながら、新校舎の改築工事は平成25年3月末までに必ず完成すること、仮設校舎は同年3月末までの使用は認めるが4月当初には必ず更地にすること、等々今年度も運営面で解決しなければならない難題が山積しています。揮発性化学物質による人体への影響を考慮して建築資材、教具(コンピュータを含む。)、教材などさまざまなものが生徒の健康に悪影響を及ぼさないように細心の注意と教育的配慮を模索し、準備を進めています。加えて、厳寒期に仮設校舎の解体工事を始めなければ国の要求には応えられないので、来年2月から3月までの期間にお借りできる施設や交通手段の確保のための作業も同時並行して走っています。震災と原発事故を踏まえて、多賀城校舎も今年度数億円単位の改修工事が今月から始まります。

 激しく、厳しく迫ってくる時の流れに溺れないように必死で闘っている本学園の現状をご賢察いただければ有難いと思います。皆様からのこれまでのご温情に感謝すると共に変わらぬご支援を今後ともお願い申し上げます。

 
 
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