第15号
 

 
アイ・チャレンジ125
  - 東日本大震災復興バージョン6 -


学校法人 仙台育英学園 理事長
加藤 雄彦
 
  前号では、「日本列島は火山大国であることを知らしめた口永良部島(くちのえらぶじま)新岳の爆発的噴火が五月二九日に発生」したことをお伝えしました。その原因は西日本を形成するユーラシアプレートの下には南海トラフや琉球海溝で接するフィリピン海プレートが沈み込んでいることで活発な火山活動が続いていると説明しました。その根拠として、国内の火山活動は地震を引き起こす海底のプレート運動と関係が深いと考えられているからです。
 この火山活動のほぼ一年後の今年四月一四日以降、熊本・大分両県を跨ぐ百キロメートルもの範囲を震源とした、二回の震度七強の地震を含む直下型地震が一カ月間に千回以上発生しました。これまで耐震化されて、安心だと思われていた一般住宅や役所等の鉄筋コンクリート造りの建物が無残にも破壊され、余震の恐怖を伴いながら普段の市民生活は混乱に陥り、経済活動を麻痺させてしまいました。
 今回の一連の地震は九州を横切る「別府―島原地溝帯」(地溝帯とは両側を断層で挟まれた幅の広い谷を指します。)で発生しました。この地溝帯は西日本を横切る長大な断層の連なり「中央構造線」の西端に当たります。「日本列島の誕生」(平朝彦著、岩波新書一九九〇年)によると、「中央構造線の元になった断層は、今から一億年以上前、日本列島がアジア大陸の一部だったころに誕生した。(中略)日本列島は中央構造線の一部を含んだ形で、二五〇〇万年くらい前にユーラシア大陸から離れ始め、海底にできた裂け目は日本海を形成し、太平洋側に拡大しながら押し出される過程でこの断層がずれて、現在の日本列島の形ができた。」と記述されています。
 この中央構造線は全長千キロメートル以上に及び、九州から四国北部を経て、紀伊半島を横断し、伊勢湾を横切り、天竜川に沿って北上して、長野県諏訪湖付近で本州の中央部を横切るフォッサマグナと呼ばれる巨大な地溝帯にぶつかります。このフォッサマグナの西の縁が中央構造線と並ぶ巨大な断層帯として知られる糸魚川―静岡構造線です。
 研究者によって、今後の地震域の拡大に関する見解は異なりますが、中央構造線の付近で発生した一九九五年の阪神淡路大震災を皮切りに、他の地震が同構造線に沿って発生することを否定する材料は見当たりません。
 現状を考えますと、日本列島が地震や火山活動といった地殻変動の活性期に入ったことを指摘している専門家の意見を軽視できないのではないでしょうか。
 さて、五年前の東日本大震災が発生してから二年間、不安や悲しみを抱きながらも「宮城は変わる、東北を変える」と高揚感に満ち溢れていた時期が懐かしく感じるようになってしまったのは私一人だけでしょうか。
 そのような疑問に答えてくれる「3.11震災は日本を変えたのか」(英治出版二〇一六年三月一一日第一版)が日本の政治と安全保障を研究する専門家から発表されました。その著者リチャード・サミュエルズ先生(マサチューセッツ工科大学教授・同国際研究センター所長)は、「一見、災害などの危機は社会を大きく変えるきっかけになると思えるが、日本の災害史を振り返ると、必ずしもそうではない。危機が社会に与えた打撃がむしろ、旧来の体制を温存し、あるいは強固にする場合もある。」という見方をしています。
 この学園報では、「復興」という言葉を意識的に使っていますが、国から大震災の後、指示された言葉は「復旧」であり、とくに財務当局は「現状復旧」を強調した公的支援を前提にしていました。「復旧も復興も『戻る』、『復帰』などの意味がある『復』という漢字から始まるが、二つ目の字が異なるため東北の開発においても二つの言葉は違う道筋を示す。『旧』は過去を想起させ、かつて存在したものを再建するという印象を与える。『興』はより前向きで、繁栄や隆盛、再生を想起」するとサミュエル先生は述べています。それは政府が二〇一二年に復興庁を創設したときも、英語名では「Reconstruction Agency」であり、以前に戻るのか、新たな世界を創造していく姿勢なのか、判然としないものになっています。しかしながら、公的機関である以上やむを得ないのではないでしょうか。
 教育の世界は社会・経済・政治などの外部要因に影響されながら、逆らえない川の流れに翻弄されながら最適を目指す分野だと思っています。そのなかで、私立学校はその先にあるものを敏感に嗅ぎ分けて、リスクを負いながら公的機関よりも一歩先を進むことが求められています。そのような姿勢を持たなければどのような伝統校であっても、競争社会から退場を求められる結果が待っています。
 現在進めているプロジェクトは以下のとおりです。
@広域通信制課程の拠点となる施設を青森県八戸市と沖縄県沖縄市に設置し、国の設置基準を満たす。
A多賀城セクションの収容能力を増やし、通学困難者の受け入れを容易にする。
B宮城野校舎の復興工事を進める上で、生徒減少期を意識した教育施設の整備をする。
C外国語能力、国語力、科学力を重視した探求型の学習環境を創造する。
D学園リスクを常態的に監視・分析する態勢を整える。 
 これらのプロジェクトはリスクを伴いますが、近い将来、あの時やっておいて正解だったと思っていただけることを期待しています。これからも皆様のご支援を心よりお願いいたします。

 
 
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