Shukoh Topics 2009/10  
     
   
     
 
     
 
 ここは東北大学青葉山キャンパスの工学部、機械・知能系研究棟内の一室。エンジンの模型らしきものやさまざまな計測機器、そして工具にパソコン…いかにも工学部の研究室らしい小部屋の一角で、プロジェクタを背にした先生の声が響きます。
 「“泡で叩いて金属を強くする”ということで、これまでキャビテーションについてのお話をし、エックス線解析をして…。今日はでキャビテーションで金属の表面がどれだけ硬くなったかをしらべる圧子押込み実験をしていきます…」
 キャビテーション、エックス線解析、圧子押込み…先生の口からは素人には理解不能な専門用語が次々に飛び出してきます。“4人の生徒たち”は戸惑いの様子をみせることもなしに先生の言葉に頷きながら黙々とメモをとっていきます。
 プロジェクタを背にする先生は東北大学大学院工学研究科・工学部の祖山均教授で、“4人の生徒たち”は、東北大学が主催する『科学者の卵 養成講座』の発展コースを受講する高校生。そしてその中の一人が、本校5年生の早坂榛名さんです。
 
 
 
 
 
 
 
     
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
基礎コースでは数学、物理、化学、
 生物、地学の講義を


 『科学者の卵 養成講座』について、少し説明を。
 “キミの殻を打ち破ろう!”のキャッチフレーズのもとに、「理数系能力をさらに伸ばすことを目的」として、「自然科学における最先端の学習体験や実験経験を1年間、東北大学が継続的に提供する」という講座。毎年の募集人員は100人で、基礎コースからはじまり、うち30人が発展コースへと進みます。上に紹介した早阪さんが受講する講義の模様は発展コースでのひとこまです。
 基礎コースは昨年の6月からスタートしました。
 「科学は以前から好きな分野で、応募のアンケートには“物理学が好き”と書いたのですが、基礎コースの講座は実にさまざまな分野。講義を受ける場所も片平だったり、青葉山だったり。先生(東北大学教授)も毎回違いました」(早坂さん)
 でも、どれもが興味深いものばかりと話します。
 「最初の講義は生物でした。“自家不和合性”というテーマで、“植物が生き残っていくためには、いろいろな遺伝子をつくっていかなかければならない。そのために自分と同じ遺伝子の植物とは受精しない”といった内容の講義でした」
 
 
 
 
 
 
 
   
▼8月からは発展コースのメンバーに
 選ばれ、医学、そして工学を

 数学科は“次元”がテーマ、天文学では銀河の話があったり…。月に1回ほどの割合で講義が続いたのですが、その途中で早坂さんは発展コースのメンバーに選ばれ、8月からは講義プラス実験・実習が行われる講座がスタートしました。
 1回目は昨年8月の夏休み中、医学部研究室で「がん」についての講座に参加しました。タイトルは“がんは遺伝子の病気である”。
 「私自身の血液を採ってDNAがみえるようにつくってもらいました。薬品を入れて細胞をこわしたり、一日中揺らしたり…。大学院の方々が使っている専門の機器で私のDNAの固まりが現れてきたのです。“あっ、見えるんだ!”と、感動してしまいました。そのあと、大学にある“がん”の人の細胞の塩基配列を調べたり…。高校の実験室ではとてもできないような高度で専門的な実験をさせていただきました」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   
▼ふだんの授業ではできないことを
 たくさん体験しました

 そして、先に紹介した工学部・祖山教授の講座では、やはり高校生ではさわる機会がないような計測機器で金属表面の硬さを測定したり。
 「3月には100人の受講生の前でパワーポイントを使って祖山先生の講座で学んだことについて発表したりしました。本当に高校での普段の授業ではとてもできないような貴重な体験をたくさんしました」と、早坂さんは話します。
 「学校では物理と化学をとっていて、正直、生物には強い関心はなかったのですが、講座を受けて生物のおもしろさに気付きました。科学への視野がとてもひろがったような気がします」
 受講生は宮城県だけでなく、日本全国のさまざまなところから集まってきていたようです。
 「夏の医学部での講座のときには一人は埼玉から、一人は福島からのひとだったのですが、気が合っていろいろなお話をしました」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
   

▼将来はここにこもって
 思いきり研究に没頭してみたい

 発展コースの30人に選ばれてうれしかったこと、さまざまな講座を受けさせてくれた東北大学に魅力を感じるようにのなったことなど、1年近くを経ての早坂さんのこの講座への感想はさまざまですが、なによりも強烈なのは「“研究室への憧れ”が大きくなった」こと。
 「将来はここ(研究室)にこもって、思いっきり研究に没頭してみたい!という思いがとても強くなりました」

 東北大学『科学者の卵 養成講座』のパンフレットには次のような文が載っています。
 “近い将来、あなたが優秀な科学者へと羽ばたいて行くことを、東北大学は全力を挙げて支援します”
 さて、早阪さんは、これからどのように彼女自身の“卵の殻”を打ち破り、どんなサイエンティストとして未来へと、世界へと、羽ばたいていくのでしょう。期待して見守りましょう。