2004 TOPICS 国語弁論大会
   
 

優秀賞
あの女性にもらったもの…
秀光1年 渡辺さん(仙台白百合学園小出身)

   
   「私はいつも考える。人はなぜ、互いのくせや個性を、認め合う事が出来ないのだろうか」

 毎朝学校へ通う電車の中で、一人の知的障害を抱える女性に出会う。朝の電車の中は、会社や学校へと向かう人達で溢れかえっていた。しかし、いつもある一カ所だけが、まるでポッカリ穴が開いたように、一つの空間が出来ているのだ。私はある日、出入りする人の流れでその空間へと押し出された。一人の女性を取り囲むように作られた円の中には、とても冷たい空気が流れていた。周りの人達は、その女性を指差しながら、口々に 「また乗ってきたよ。」 などと話している。そんな中、その女性は一人下を向いて立っていた。私は隣に立ったが、冷たい声が飛び交う中、どこかいつも通 りに出来ない自分が恥ずかしく、また、醜く思われ、どうしてそんな自分があるのだろうかと、自分自身に問いかけた。

 その翌日、また同じように電車の中には、一つの穴が開いていた。下を向いて無表情のままの女性の姿を見て、私は激しく心を揺さ振られた。

 そして、勇気を出してその円の中に立った。冷めた視線と突き刺さるような言葉、汚い物でもよけているかのような動き。初めて、その女性の気持ちを感じた。何も悪い事をしたわけでもないのに、皆が自分に注目する。あの女性は、それでも堪えながら毎日同じ時間の電車に乗っているのだ。とても、心の強い人だと、私は思った。そして周りを囲む人達に対して、激しい憤りを感じた。

 同じ人間であり、同じ心を持った人であり、それなのに、なぜそんな態度をとるのか、きっとあの女の人には聞こえ、感じていたはずだ。

 相手の個性や、持って生まれた体の障害を嫌がったり、蔑んだり、ありのままの相手の姿を認めようとしない。そんな権利は人間にはないし、それが一番のバリアを作っているのだと思う。それに、命の関係に上下はない。まして、人という同じ台の上にいる者が自分勝手に格付けをしていいのだろうか。

 一人一人の、個性もクセも体の障害もひっくるめて、何もかもが世界に一つだけしかない特別 なものであり、その人の、チャームポイントであるのだと、私は思う。そのチャームポイントを 「素敵だな。」 と思える心、認めようとする気持ちが生まれた時に、相手も自分も楽になり、初めて深く心を通 い合わせることが、実現するのではないだろうか。

 人を大切にすること、その一つの命を、大切に思うこと。 「この星に生まれて、今ここで、あなたに出会えた。」 そんな命の奇跡を感じられた時に、心から人を受け入れ、また自分を大きくすることが出来るのではないだろうか。

 そして、私は強く望むのだ。いつか、あの電車で出会う女の人に、 「おはようございます。」 と一言、言えることを。