2004 TOPICS 国語弁論大会
   
 

日本の文化と江戸時代について
秀光2年 遠藤さん(松島町立松島第一小出身)

   
 

 今年の夏は去年とは違い猛暑となりました。東京では真夏日の連続記録を更新しました。そんな東京で近年「大江戸打ち水大作戦」というのが展開されました。

 「大江戸打ち水大作戦」というのは時刻を決めて、みんなで一斉に打ち水をするというものです。NHKの「ご近所の底力」というテレビプログラムでも取り上げていたのですが、打ち水をすることによって、打ち水をした地区の気温を、しない周囲に比べて二、三度下げることができるという内容でした。

 さて、東京の都市でなぜこんなに暑くなるのかというと、東京にはたくさんのビルが立ち並んでおり、そのビルが風の通 り道をふさいでしまったこと。そのビルや住宅のエアコンの排熱や自動車の排熱が都市にたまることが原因で起こります。熱を含んだ空気が島のように動かずにいる現象で、「ヒートアイランド現象」と呼ばれています。この「ヒートアイランド現象」の原因を考えてみると、今は“便利な生活”“快適な生活”を現代の技術を使って手に入れようとした結果 だといえます。

 それに対する対策として「大江戸打ち水大作戦」が選ばれたのです。打ち水は昔から行われていたことです。便利で快適な生活をハイテク技術で手に入れようとして生じた問題に対する対策が、江戸時代から続く打ち水という昔の技術なのですから皮肉な話です。

 この皮肉から分かることが一つあります。「便利」や「快適」というのを生活の質を判断するものさしにするのは、あまりかしこい方法ではないということです。

 それでは、どんなものさしで判断するのが「かしこい」のでしょうか。

 図らずも「大江戸打ち水大作戦」にある江戸時代がヒントになると思います。私たちがイメージする江戸時代は、身分制度があり武士がいばっていた時代。女性の立場が著しく低く見られていた時代。飢饉などで人々が簡単に死んでいった時代というものです。でもそれが、本当の江戸時代の人々の生活を映し出したものとは思えません。

 その一つの例を新聞の社説から見つけました。八月二十日の読売新聞の社説です。日本文学研究者ドナルド・キーン氏によれば、海外で日本最初の書物が翻訳されたのは一七八五年(天明五年)に林子平が著した地誌「三国通 覧図説」です。ロシアに漂着した船頭が本の内容をロシア人に読んで聞かせたのだそうです。キーン氏は、武士でも学者でもない庶民が書物を読めたことに驚いたそうです。江戸時代は、庶民が文字を読めるほど教育のレベルが高かった時代なのです。そして当時の技術を徹底的に生活に生かしていた時代であることが、「茶運び人形」などの江戸時代のからくり人形からうかがい知ることができます。

 また、幕末に日本に来たイギリス人が日本人は世界で一番園芸に熱心な人々であると日記に書いているそうです。今流行のイングリッシュガーデンの国が二百年前の日本の園芸熱に驚いていたのです。ひょっとすると明治時代から今までの二百年の間に、私たちは、もともと持っていた大切なことを見捨ててきたのかもしれません。

 このようなことから、江戸時代をもう一度見直し、その価値を再発見するべきです。確かに、江戸時代は、「便利さ」「快適さ」などのものさしを使えば不便極まりない時代かもしれません。しかし、俳句や川柳などの芸術や、寿司や豆腐など世界に冠たる食文化を作り上げたのは江戸時代だからです。それに東京で外国の人を多く見かけるのは、汐留など新開発地区ではなく、浅草など江戸情緒あふれる場所です。海外の人々から評価され、尊敬されているのは、日本の「経済力」などではなく、江戸時代までに生まれた「日本の文化」、言葉を換えれば「日本の心」なのです。